ロードアイランド造形大学写真学科卒業後、高松宮殿下記念世界文化賞・絵画部門受賞者である時代の寵児、杉本博司に師事。ニューヨークの伝説のディーラー、アイヴァン・カープ氏に認められ、同氏がオーナーを務めるO.K.HARRIS Garelly(SOHO)で2001年デビュー。貧しくとも懸命に生きる人々を優しく見つめ、独自の世界観で人を魅了する。 所属ギャラリーはボストンの「Tepper Takayama Fine Art」やニューヨークの「SOHO Photo Gallery」など
art in contextー Dai Nakamura
フォトグラファー 中村 大
●中村氏とは私の「Jazz香る版画展」でお会いした。ZAIM cafe ANNEX での私の展示後に開催する個展が決まったのだ。大きな身体にカメラが小さく見える中村氏、この時はデジタルカメラを持っていたが、作品は全てフィルムで撮影し、ほとんどの場合トリミングはせずにフルフレームでプリントしているという。それは撮影時、彼の覗くファインダーの中にギリギリまでそぎ落とした視野角を押さえているからだ。

彼ははじめて手にしたカメラは記憶は定かではないが、ミノルタのX700だったと言うことだ。それも大学の時に初めて選択したと言うから、かなり遅い時期にカメラに目覚めた言えるだろう。現在お気に入りのカメラはコンタックスT3と大判カメラ(ジナーF)とローライ。撮影は白黒が主なので撮影時のレンズはトーンの出方を考慮して選択していると言う。
元々映画監督になりたくてアメリカ留学をした彼だが、映画よりも先に写真に出会ってしまった。写真に対しては商業写真的な物は意識の中になく「写真はひとつの作品として捉え、表現者として写真という手段を選択しただけ」と言う。そう言われてあらためて彼の作品を見ると、作品は映画のようにひとつのストーリーを持ち、中に登場する人物が彼の目によりひとつの瞬間に閉じこめられているように見えてくる。
今まで撮影は世界中のいたる所で行っている。その時々に表現したいフィーリング、コンセプトがある所を探し、またはそれらを作って撮影している。 学生の頃はロードアイランド、仕事ではニューヨーク。車でアメリカを縦断。でヨーロッパ圏、東南アジア、中国、アフリカ、イギリス、ジャマイカ、カナダ等に渡る。
●ZAIM cafe ANNEXでの展示作品「The Diner」はまさに時代や文化を越えた、人が人として自然に生きている、アメリカン・グラフィティーの中に生きる人々が納まっている。この作品群はアメリカにある当たり前にある日常を自然に切り取ることに主眼を置いていると言うことだ。撮影時は撮影されている人達に撮影されていると言うことが負担にならないよう、一個人を執拗に追いかけるようなカメラの向け方をしない事を心がけた。
彼は、このダイナーの中にカメラマンとして入り込んだのではなく、住民の一人としてカメラを向けていたのだと思う。撮影後は中村氏の撮影意図を理解してもらえるようにプリントファイルを置いたと言うから、そう言うことも自然にダイナーの空間に入り込んでいった要因なのだろう。
●中村氏はとてもフランクな印象だが、話をしている中でなにかとらえどころのない部分を感じる。目の奥に私の想像する世界観とは異質な所があるようだ。その見えない部分が彼の作品を作り出す力となっているのであれば、次回保土ヶ谷公園の展示会作品を見る中で是非とも探ってみたい要素でもある。
今回はタイミングが上手く合わず、彼との直接対談の様子をビデオに撮れなかったので、失礼にも質問状を送りつけそれに答えて頂く形をとったのだが、その最後に若い人に向けて写真の魅力を語って頂いたので、それを記したい。
HAL_>若い人に向けて、写真家の魅力を簡単に説明して下さい。
中村>簡単に言えば表現の不自由な所で漂える事。世の中に在る物でも作った物でも、写し込む瞬間は操作が出来ない。その瞬間を頭に描いて、自分の持てる技術と感性、そしてその瞬間(決定的と言う意味ではなく)の偶然性(人の手を離れた様々な要因)が加味されてイメージが作られて行く所ではないかと思う。
●展示会
中村大写真展「The Diner, Solitude and Solace展〜ダイナー、孤独と癒し」
【開催期間】2009年11月21日(土)〜12月6日(日)
【会場】ZAIM cafe ANNEX
横浜市中区石川町1-51
(JR根岸線「石川町」駅南口より徒歩4分)
【開催時間】12:00〜21:00
※月曜休館(祝日の場合は営業、翌日休館)
●アメリカで最も小さな州、ロードアイランド。その小さな州にある、さらに小さなアイリッシュ系アメリカ人が多く集う場所、それがダイナー(食堂&カフェ)として営む店「アーリー・バード・ダイナー」。ここはアメリカの平均的な庶民(やや貧しい労働者階級)が集い、常に人々の触れ合いに満ち、孤独と癒しがバランスを保っている場所である。
リーマンショック後の急激な経済不況、地球の温暖化など、世界中が多くの問題を抱える現在、ダイナーに集う人々が我々にささやく。「私達が見直し、考えていく必要のあることとは、方法論だけではなく、私たち自身、人間の在り方ではないか」と・・・。
この写真展では、鬼才、中村大が、このダイナーの日常を数年に渡って撮り続けた作品22点を様々な角度から展示した。ダイナーで営む何げない日常の姿が、我々の心を満たし、今の時代を生きるヒントを示してくれる。
●中村大写真展 SKYSCAPE展〜CITY VIEW ZAIM cafe hodogayapark
【開催期間】2010年2月1日(月)〜2月28日(日)
【会場】Gallerycoen
横浜市保土ヶ谷区花見台4-2保土ヶ谷公園資料展示館内
【開催時間】10:00〜11:00、14:00〜21:00
※月曜休館(祝日の場合は営業、翌日休館)
【SKYSCAPEアーティスト・ステイトメント】
地球を取り囲み果てしなく我々の頭上に広がる空、その昔から多くの宗教絵画の中で空は神の意思を示す要素であり、地上で起こる様々な奇跡を照らし出す光と共に空がそこに在った。確かに今でも、時折空に神々しさを感じてしまう自分達が居る。
そして今現在その空と我々の間に立ちはだかる高層ビル、マンション、高速道路、送電線などの人工物。時代の進歩と共にそれらは数量と高さを増した。その造形物らは時代の景観をどんどんと新しく変え文明の栄華を象徴し、そして我々もそう信じて来た。その昔神と共にあった空、その空と我々が織りなす景色とは何なのだろう。これがこのシリーズを作るきっかけとなった私の最初のクエスチョンだった。
近年の稀に見るマンション建設ラッシュに伴い、空を見上げると必ずクレーンが視界に入る。その数はここ数拾年の中でも最も多く、まるで経済発展を誇示するように空に向かって高く、高く地上から伸びてゆく。クレーン群が遮るのはこれから幾重にも重ねられ高層化する構造体によって満たされ、次第に私達の視界から消えていく空景、その空を背景にクレーンは黙々と作業をこなす。建物が完成すると同時にクレーン自体は撤去され人々はその存在など忘れてしまう。新たに生み出された文明の稜線が日常の眺めとしてそこに出現し、かつてそこに在った空の存在も新しく立った建造物すらも忘れられるのだ。
悠久の時を経ていつも我々を見下ろしそこに歴史の証人として在る空。数多くの時代と文明を見守り、恵みを与え、時に天災を生み出し苦難も与え我々の歴史と発展に大きくかかわってきた。片や人生100年にも満たぬ人類が築いてきた文明、時の移り変わりと共に最良と信じられ作り上げられた人工造形物が溢れかえり林立するこの地上。その限りある我々が作り上げた有限の世界と永遠の空の間に立ちはだかるクレーンや人工造形物は、有限である我々自身の象徴なのだ。私達の思い上がりの印。有限の人類の慢心によって作り上げられた無限存在である空に刻みつけられた一瞬の傷。
時に現れる神々しい空は、そんな傷すら我々の儚さとして浮かび上がらせ、またその圧倒的な情景の中に優しく溶け込ませ無に帰す。私達は技術を駆使して自然を支配して来たと信じたが、自然は我々をいつも包み込んでその一部として取り込んで来ていたのだ。
今現在人間の無思慮な生産行為に伴う破壊の威力はかつて無いほどに、この地球に暗い影を落としている。これは人間が本来の自然との関わり方を忘れてしまったからだ。今現在人間の無思慮な生産行為に伴う破壊の威力はかつて無いほどに、この地球に暗い影を落としている。これは人間が本来の自然との関わり方を忘れてしまったからだ。我々がバビロニアの災厄を忘れて同じ過ちを犯して来たのであれば、二度目の神の怒りは想像を絶するものになる事は疑いの余地が無い。







