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Bohemian トップページ > 連載コンテンツ連載コンテンツ【久多@麩羅画堂 異夢譚 vol.24】
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猫谷物語
第二章 破壊
七 予兆(3)

先ほどから黙って聞いていたカタミミが立ち上がり口を開いた。
「アカミミ殿、ご意見は誠に立派である。だが、それは理想と申すもの。この狭い谷間でいかに共存を図ろうというのだ。これはご自身が申された事だ。現に崖が崩され今また館がいくつかなくなるのだ。さらに狭くなるだけでないか。今こそ家持ちを叩き服従させ、以前のように貢ぎ物をさせなければならん。このところ家持ちどもは自分達だけは助かると思い、つけあがり態度が傲慢になっておる。我らが逃げ去るのを今か今かと思っているに決まっておる。こちらより共存の話を持ち掛けても恐らく拒否をしてくるに相違ない。」

「カタミミ殿、貴殿は先ほどから家持ちが我らを滅ぼそうとしているかのように話しておるが直接会って確かめでもしたのか?」

「ほお、するとアカミミ殿は話でもして来たのか。家持ちとなにやら気脈を通じておるのか?そう聞こえるがな。」

老獪である。
相手を怒らせ向かって来たところを鋭い牙と爪で倒す。
やられたらやりかえす。
これがカタミミにとっての正義であった。

アカミミは気色ばんだが危ういところであったわと気が付き、
「そうではない。家持ちどもの中には心ある者もいる。密かに食い物をもらっている野良もいる。生まれたばかりの子供を養うには狩りだけでは追い付かん。彼らが密かにとはブチをはばかってのことだ。」

「何を血迷う。我らは猫だぞ。与えられるのではなく狩り取るのだ。アカミミ殿はいつから猫の誇りを捨てたか!」

「ハハッ、カタミミ殿は面白い事を言う。狩り取るとな、ならば言う。お主この谷へきた真の理由は何だ。俺が知らんとでも思っておるのか。」

これだけは言うまいと思っていたが、口から出てしまった。
「クロ殿を倒して己が野望を遂げんがためではないか。」
しまった。とアカミミは思ったがもう遅い。

カタミミは赤くなった。
確かにそのような夢を見た事はあった。
だが今はそれを胸の奥深くに沈めクロに忠誠を誓いクロが天下を取るのを楽しみとしていた。
それを今さら持ち出してきた。
思わず武猫の本質を牙に見せた。

クロを挟んで睨み合った。
「二人とも止めい!良い歳をして恥ずかしいとは思わぬか。」
クロは長であった。
時には感情のまま突っ走る事も多々あったが、やはり統率者の器量の持ち主であった。

「アカミミの言う事も判る。カタミミの意見ももっともな事である。アカミミは誇り高い猫だ。密かに通じる事などありえようがない。またカタミミも武猫だ。心にやましさがあるとは思われぬ。カタミミの武、アカミミの智、どちらも車の両輪である。どちらが欠けても俺は働けぬ。なかよく俺を助けよ。」

ハハア!とアカミミとカタミミはクロに向かい頭を下げた。

「真にクロ殿は長でござった。歳がいもないことを口走ってしまった。今は恥ずかしい限りでござる。」
どちらからというともなく相手に済まぬと詫び、険しい気が消えた。

厳しい表情に戻ってクロが話し続けた。
「俺の腹はとうに決まっている。ブチを倒し谷を昔の通りに戻す。これが俺に天が与えた第一の使命だ。谷が削られ野鼠どもが減る事は目に見えている。それでなくても食い物が少なくなる冬を間近に控えておる。この地が住みにくくなるその前に決着を付けねばならぬ。」
クロがそこまで決心しているのならもう何も言うまいとアカミミは思った。

二匹が帰った後、クロは背にしていた楓に振り向き語りかけた。
「お前はもう何年も見ているが紅葉のくせに赤くならぬ、いつも茶で終わる。俺も野良だが、いつまでたっても野良に徹する事ができぬ。二匹の前ではあのように強く言ったが、どうも気が鬱としてならぬ。キクを殺ろしキジに打たれたがそれは当然の報いだ。俺がやりきれんのは、いつも勝ったと思う度に負け続けているような気がして仕方がない。思うとおりに生きてきたつもりが生かされているように思えてあれから先どうにもならぬ。キクに飛びかかった時からだがその際のキクの目だ。何か俺に言ったような目であった。あまりに毅然とした目であったが、はて、是非を見分けよと言ったかのようにも思える。死んでしまったから今さら聞く訳にもいかぬが、一体あれが何であったのか。俺は野良の本質は力であると信じていたがあれを見てから心が揺れる。己の信じてきたものがあっさり崩されるようで徹することが難しく感じるようになってしまった。ブチと闘うことで辛うじて己を保っているがな。」

闘志を燃やすしかこの嫌な気分を吹き消すことができなかった。
「いずれは決着をつけねば収まるまい。どうしても勝たねばならぬ。」
マタタビの酔いが回ってきたのかそのまま楓の根元で寝入ってしまった。

(八 嫉妬(1)に続く)


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●猫谷のキャスト(登場順)
アカミミ(猫谷の野良猫)
クロの武猫。両の耳が赤い。瞳は緑色。闘いが好きでないが食うためには仕方が無いと考えている。
カタミミ(猫谷の野良猫)
元は、はぐれ。クロの武将。右の耳が千切れている野良猫の勲章。
クロ(猫谷の野良猫)
西の新天地を目指す。島の猫として生きる。

猫谷余計なお世話^^
谷の楓は決して鮮やかな紅にならない。気候の所為であるが赤黒くなったままで果ててしまう。夢を持ちながらなかなか大きくなれずに疑う事すらあるクロは自身をなぞらえて樹木に語りかける。いまだに努力が何のためだか不明であるからだ。元来強い性格であるのに目覚めるのは時間を待たなければならない。

付録
猫谷物語テリトリー図:色分けされたテリトリーにキャストが出ますよ^^
http://www.furagadou.com/nekogayatsu/nekoterr.swf


作家:久多@麩羅画堂  ttp://www.furagadou.com/
イラストレーター
地図の町、香取市に生まれる。それが原風景か、白い坂の上の真紅のバラ、遠く町にそびえる煉瓦の煙突、磯で砕け散る波の中に夜光虫、雪の降り止んだ真夜中に稲妻、地平線に黄金の穂の波、僅かな土にしがみつく雑草に心を寄せ、蟻の行進を飽きる事なく見続けた。生きている事、無垢無心である事、ただそこにある。ただ日々を生きる。その存在に心惹かれる。1993年から久多オリジナルカレンダーを作り続けている。
不定期でこんな事も始めました。 http://furagadou.posterous.com/
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